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導入事例兵庫県三田市 デジタルツールで人と施策をつなげる
​~「タッチで脳の健康チェック」で脳の健康と相談窓口について啓発~

取材:2023年4月25日 三田市総合福祉保健センター​

兵庫県の南東部に位置する三田市。市の北部には里山の景観が広がり、南東部の市街地には城下町を偲ばせる街並みが垣間見られ、南西部では成熟期を迎えるニュータウンが美しい都市空間を形成しています。三田市は大阪や神戸へのアクセスが良く、ニュータウンの開発が始まると一斉に人口が流入し、昭和62年~平成8年には10年連続で人口増加率日本一を記録しました。この時期の転入者が高齢者となることなどから、今後は急速な高齢化が見込まれています。こうした状況を踏まえ、市は令和4年度より、「のうKNOW」を用いた「タッチで脳の健康チェック」事業を開始。早い時期から脳の健康に関心を持ってもらうとともに、より多くの市民を様々な認知症施策につなぐため、デジタルツールを活用しています。

※「のうKNOW」は疾病の予防や診断ではなく、健康意識の向上を目的としています。

三田市の景観の画像

取り組みのポイント in SANDA

  • 機動性
    拠点で「のうKNOW」の運用に慣れた後は、ニュータウンなどでの出張チェックにもチャレンジ。新たな市民層とのつながりを築く。
  • 啓発性​
    脳の健康に関心を持ってもらうとともに、地域包括支援センターなど相談窓口の存在を知ってもらう機会としてチェックを利用する。​
  • 展開性​
    結果説明時の会話を重視。思わぬ結果が出た場合のショックを和らげつつ、対応が必要なケースを拾い上げ、既存の相談窓口や認知症予防事業につなげる。

    ​→ 既存の事業の活性化にもつながる​
  • 継続性​
    チェック後のアンケートで次回参加を希望する人には案内を郵送。継続的・定期的なチェックを促す。​
  • 利便性​
    地域包括支援センターの公式LINEアカウントを開設。LINEからも「タッチで脳の健康チェック」の申し込みができるようにした。

三田市の近年の認知症施策とデジタル化の流れ​

三田市の近年の認知症施策とデジタル化の流れ​の図

市の展望​

三田市では令和2年10月に「さんだ里山スマートシティ」の推進に取り組むことを発表しました。デジタルを活用したモビリティ(交通・移動)の整備、市役所サービスの向上など様々なプロジェクトが企画されるなか、市のいきいき高齢者支援課としても何かデジタルツールを活用した取り組みができないか検討していました。そうしたなか令和3年秋、「のうKNOW」について知ります。「のうKNOW」の活用は、「認知症共生条例」制定の動きにも沿うことから、「タッチで脳の健康チェック」の導入に踏み切りました。

手軽さと結果が目に見える点が「のうKNOW」導入の決め手でした

三田市役所 共生社会部健康共生室 いきいき高齢者支援課 保健師​
池田 聡美 さん​

「もの忘れ相談や認知症初期集中支援事業、運営委員会」などを通じて、認知症疾患医療センター(国立病院機構兵庫中央病院)の先生とは日頃から情報交換ができる関係にあります。その流れで「のうKNOW」のこともご紹介いただきました。様々な立場の人が協力し、三田市の認知症施策をより充実させていこうという機運が高まっているところに、「のうKNOW」という新しいツールがうまくマッチした印象です。

当時の課長と私が実際に「のうKNOW」を体験してみて、まず感じたのは、ゲーム感覚でチェックができて「おもしろい」「楽しい」ということでした。私たちがそう感じるなら、市民の方々にも楽しみながら脳の健康に関心を持ってもらえるのではないかと興味がわきました。

導入のもう一つの決め手は、ABC判定や脳年齢として結果が明確に出ることです。健診でコレステロール値などをお伝えするのと同様に、脳の健康度の評価も目に見える形で市民の方々にお返しできます。今までにない取り組みであり、市民の意識づけに大きく役立つと感じました。

当課が主管している「もの忘れ相談」よりも利用のハードルが低く、より若い市民の方々にも働きかけやすいツールとして期待しています。実際、地域包括支援センターの寺坂さんや髙橋さんが、イベント型(出張型)の「タッチで脳の健康チェック」の際に、その場にいる方々を「チェックしてみませんか?」とお誘いしている様子を見ていると、市民への投げかけがしやすくなったと実感します。​

堅苦しい認知機能検査とは違い、手軽にできるという「のうKNOW」のメリットを活用することで、今後も多くの方の意識づけや健康づくりに役立て、また認知症の理解へとつながればうれしいですね。

令和4年度「タッチで脳の健康チェック」実施状況・結果

実施状況総実施者数:115名

実施結果

A(正常な状態です) B(ボーダーライン) C(維持向上のための活動を取り入れましょう)

ウッディタウン市民センターでの「出張 タッチで脳の健康チェック」

地域包括支援センターの手応え​

三田市から委託を受ける三田市地域包括支援センター(以下、包括)では、「タッチで脳の健康チェック」導入初年度は令和4年5月~令和5年1月の奇数月の第4火曜日に、包括が2階に入る三田市総合福祉保健センターで実施することにしました。5月・7月の回を経験し、包括の寺坂さんと髙橋さんが運営の仕方に慣れてきたころ、市の池田さんから9月の世界アルツハイマー月間に合わせて認知症に関する啓発展示を行う話が持ちかけられます。寺坂さんと髙橋さんは、展示会場となる三田市立図書館(本館)とウッディタウン市民センターで、「タッチで脳の健康チェック」も併せて行う“出張型”にチャレンジすることを決めました。

チェック後の会話を通して次の展開にスムーズにつなげられます​

三田市地域包括支援センター 認知症地域支援推進員/看護師 寺坂 梨沙 さん​

「のうKNOW」については、客観的なデータがパッと見られる点がおもしろいと感じるとともに、データを得た後にどう展開するかが大事だと考えました。包括で情報を把握させていただいて健康指導をしたり、「いきいき百歳体操(三田市版)などを行っている地域の“つどい場”への参加をお勧めしたり、「もの忘れ相談」につなぐなど、既存の事業と手をつないでいけるツールになりそうだという感触がありました。

チェックの場では、参加する方の緊張をほぐすことに加え、結果説明時の会話を重視しています。思った結果が出ず、落ち込む方もいます。私たちがお話を伺うと、「最近、眠れていない」「忙しい」「夏になると意識が朦朧とすることがある」など体調不良を口にされる方が少なくありません。そうしたお話を伺うことでショックがある程度和らぐと思いますし、お話の内容に応じて私たち保健師や看護師がアドバイスをしたり、「フレイル予防教室」など健康講座への参加をお勧めしたりしています。回を重ねるなかで、私たちのほうから「眠れないとおっしゃる方も多いんですよ」などと投げかけ、「そういえば」と返していただくケースも増えました。​

「のうKNOW」はとてもコミュニケーションがとりやすいツールです。最初に期待したように、対応が必要なケースの拾い上げや、既存の事業につなぐ展開が実際にできていくという手応えがあります。

“出張型”を加えることで、男性への働きかけや包括のアピールが進みました​

三田市地域包括支援センター 相談員/保健師 髙橋 美由紀 さん​

「タッチで脳の健康チェック」に限らず、包括の催しの多くは三田市総合福祉保健センターで開催されます。ただ、ニュータウンの方などからは「家の近くで開いてほしい」という声も届いていました。今回、基本的にデジタルツール(タブレット)があれば脳の健康チェックはできるので、私たちがしっかり準備をすれば地域に出ていけるのではないかと思い“出張型”にチャレンジしました。アウトリーチを行うにあたり、健康意識が高く、催しの開催を知るとすぐに予約を入れていただける方とは違う層の市民の方々─包括とも地域の“つどい場”などとも関わりがないような方々ともつながればと思い、あえて予約制にはしませんでした。市立図書館本館もウッディタウン市民センター併設の図書館も、新聞などを読みながら自分の時間を過ごされているシルバーの男性がたくさんいます。そうした方々がイベント的な要素のある出張型のチェックに興味を持ってくださったり、私たちの呼びかけに応えてくださったりしてチェックを受けてくださいました。チェック後のアンケートで「次回も参加したい」を選んでいただいた方も多数にのぼります。「タッチで脳の健康チェック」は結果がすべてではないと思っています。チェックを通して脳の健康に関心を持っていただくとともに、包括やそのほかの相談窓口があることを知っていただく啓発の部分にも重きを置いています。​

チェック後の展開の図

チャレンジは続きます!

「タッチで脳の健康チェック」(令和4年度)を終えた方にアンケートを実施。
1年に1度は脳の健康チェックをお勧めしています。

Q.次回の参加を希望しますか?​

73%が継続参加を希望

次回参加希望者にはご案内の書類を送付いたしました。​

※アンケート回答者:107名

【自由回答 抜粋】
・ 途中からルールが分かった。またリベンジしたい​
・ 楽しかった​
・ 脳年齢がわかって安心した​
・ 友達にも教えるわ​
・ 昨日から緊張して寝れなかったから​結果が悪かったのかしら​
・ 最近忙しかったし、疲れが残っていたから​いい結果が出なかったのかも​

さらに令和5年度より、三田市地域包括支援センター公式 LINEアカウント「オレンジライン」を開始

認知症や脳の健康に関する情報を定期的に配信​

LINEからも「タッチで脳の健康チェック」や「もの忘れ相談」の申し込み(予約)ができるようになりました!
最初にLINEから「タッチで脳の健康チェック」の申し込みがあったのは、初年度(令和4年度)はチェックを受けていない方でした。

脳を活性化する運動「ブレパサイズ®」の紹介動画を見てチャレンジ​

オレンジラインの画像

※ブレパサイズはエーザイ株式会社およびその関連会社の登録商標です。​

三田市 総合政策部 未来戦略室スマートシティ推進課​
岸本 博樹 さん​

オフラインで人と接する場で、公式LINEアカウントのようなオンラインの仕組みを広めることは重要です。今後も、「タッチで脳の健康チェック」のような出張イベントの機会を活用して、健康にそれほど関心のない方々にもアカウント登録をしていただくことで、別の取り組みについてもお知らせし、新たな参加を呼び込むことが出来ると思います。

導入自治体様インタビュー​

令和5年度は、三田市が三田警察署等と連携して開催している交通安全教室での「タッチで脳の健康チェック」の実施が決まるなど、“出張先”が拡大しています。

岸本 博樹 さん(三田市)「現場で市民の方々の声を聞いている三田市地域包括支援センターのみなさんの意見やアイデアはとても貴重です」

​池田 聡美 さん(三田市)「兵庫県立大学さんから親子参加のイベント(ひとはく健康チャレンジ)のご相談を受けたときは、“これは「のうKNOW」だな!”と思いました」

​寺坂 梨沙 さん(三田市地域包括支援センター)「池田さんをはじめ、“こんなことをやってみたらどうだろう”という話をできる方がたくさんいてくださるのでありがたいです」​

髙橋 美由紀 さん(三田市地域包括支援センター)「出張型については、私たちが行ける限りのところには “どうでしょうか?”と話を持ちかけていきたいですね。チャレンジ精神です(笑)」​

インタビュー画像

左から、岸本 博樹 さん、池田 聡美 さん、寺坂 梨沙 さん、髙橋 美由紀 さん​