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導入事例島根県邑智郡美郷町・ICTで脳の健康サポート
~脳の健康への関心を高め、認知症予防や早期発見につなげる~

田之原展望台から見た江の川と周囲の山々。

田之原展望台から見た江の川と周囲の山々。

島根県の中央部に位置する美郷町。町のほぼ9割を林野が占め、中国地方最大の一級河川である江の川が貫流するなど自然豊かな町だ。全国の 中山間地域の自治体の多くがそうであるように、この町も人口減少と高齢化が年々、深刻さを増している。

そんな同町だが、ことデジタル技術の利活用においては都会に一歩も引けを取らない。小中学校へのタブレット端末配備など、早くからICTの活用を進めてきた。2020年度は脳の健康維持や認知症予防を目的とした活動にもデジタルツールを導入。今後は、より多くの町民に予防に対する意識を高めてもらおうと、若年層へのアプロ ーチも視野に活動を拡大していくという。

中山間の過疎自治体が進める、積極的なデジタル技術の活用

美郷町が町内各校に電子黒板、教室ごとにノートパソコンを導入したのは約10年前、2010年のことだ。以降、教育に限らず、幅広い分野でのデジタル技術の活用を進めている。

教育
各校にタブレット端末、電子黒板、無線LAN
10年ほど前から段階的に教育の ICT化を推進。文科省の「ICTを活用した教育推進自治体応援事業」にも採択された(2015、16年度)。
子育て支援
妊産婦のオンライン相談
経産省の時限事業で妊産婦対象の無料オンライン相談窓口を開設。現在は町が町外の産婦人科医、小児科医と委託契約を結び、町の事業として実施。
住民サービス
ドローン物流の実証実験
ドローンによる複数拠点間輸送の実用化へ、民間企業との実証実験が進行中。
最新のIP告知端末を全戸配布
行政情報の告知・閲覧、テレビ電話での見守りなど。オンライン診療も視野。
介護予防
脳の健康チェックにデジタルツール活用
町が実施する「脳のお元気教室」および特定健診の参加者を対象に、デジタルツールを用いた脳の 健康チェックを実施。

「脳のお元気教室」「特定健診」で脳の健康度チェック「のうKNOW」

※本チェックは疾病の予防·診断を目的としたものではありません。

美郷町では2020年5月末から、新型コロナウイルス対策事業「高齢者等支援パッケージ(健康対策・買い物支援)」を実施。「新型コロナウイルスに負けない脳のお元気教室」はその中の一つで、デジタルツールによる脳の健康チェックや各種レクリエーションを主な内容とする。今年度は特定健診でも脳の健康チェックを取り入れるなど、より若い世代の脳の健康に対する意識を高める活動も行っている。

新型コロナウイルスに負けない「脳のお元気教室」

対象者:町内在住の60歳以上の住民

開催頻度:町内14カ所で2020年6月から毎月実施

教室の概要:1回90分。コグニサイズやクイズ、簡単な計算、昔話の音読、合唱、手足を動かすレクリーションなど。初回参加時と年度末に「のうKNOW」を実施。

各種レクリエーションではソーシャルディスタンスを徹底。

特定健診における脳の健康度チェック

対象者:町内在住の40歳以上の特定健診受診者のうち希望者に「のうKNOW」を実施。

「のうKNOW」で脳の健康度チェック。

「のうKNOW」の実施状況(2020年10月時点)

BおよびC判定の割合は特定健診で24.6%、お元気教室で40.5%。特定健診での脳の健康度チェックを事前に予約した受診者は30名ほど。だが、現場スタッフの声かけなどもあり、当日は大幅に上回る73名がトライ。多くの関心を集めていた。お元気教室にはほとんどの町民が継続して参加。初回に脳の健康度チェックを行い、脳の健康維持や予防に対する参加者の関心が高まったことが要因の一つとして考えられる。

導入自治体様インタビュー

美郷町 町長 嘉戸 隆さん

勝負はここからの2、3年。
DXの道筋をどれだけつけられるかが
向こう10年の住民サービスが決定づけます。

美郷町 町長

嘉戸 隆さん

美郷町がICT活用、デジタルトランスフォーメーション(DX)に積極的な理由について

美郷町では、現在、民間企業とドローン物流の実現に向けた実証実験を進めています。

都会は高速道路網が発達し、人員確保も容易ですが、人や建物が密集しているぶんドローンの落下には神経質にならざるを得ません。 一方の美郷町は、鉄道路線廃止で公共交通は衰退し、人家が散在するため効率的な配送も困難です。しかし、江の川上空を飛行ルートとするため落下によるリスクはほぼゼロです。新しい技術というと都会が先行するイメージですが、ドローンに関していえば、切実なニーズを有し、かつ実用化の可能性が高いのは美郷町のほうなのです。ICTやDXは実は田舎こそニーズが高く、田舎から発達していく技術ともいえるのではないでしょうか。

ドローン物流の対象は何を想定していますか

美郷町には中核病院もホームセンターもドラッグストアもなく、通院や買い物は町外に出ざるを得ません。したがって生活用品から食材、薬、行政の刊行物まであらゆるモノをドローンでの運搬対象にしたいと考えています。

もう一つ、近年の美郷町の課題として挙げられるのが水害の激甚化です。町を流れる江の川がひとたび増水すれば、孤立化する集落もあります。そうした地域への物資輸送を考えても、ドローンの早期の実用化が望まれています。

2020年12月に大手通信会社と連携協定を結びました。どのような構想があるのでしょうか

現在、美郷町ではテレビ電話機能を持つIP告知端末の各戸への設置を進めていて、5月に完了する見通しです。これにより、技術的には町外の中核病院との間でオンライン診療を行うことも可能になります。ドローン物流と組み合わせれば、家から一歩も出ることなく薬の受け取りまで完結するわけです。ほかにもネットショッピングやテレビ電話を使った高齢者の見守りなども可能になります。高齢化が進み、交通手段も限られる美郷町で、これらのサービスは日々の生活において大きな助けになるはずです。

手をこまねいて追従するスタンスでは、周回遅れでコストをかけて導入しなければなりません。技術を持つ企業と協力し、実用化の道筋をつけるための実験段階からフロントランナーとして関わっていくことが重要だと思っています。勝負はここからの2、3年です。ドローン物流も含め、DXの道筋をどれだけつけられるかが、向こう10年の住民サービスを決定づけるという認識で動いています。

今年度は脳のお元気教室でもデジタルツールが活用されました

大事なのは技術を導入することではなく、それを用いてどのようなサービスを提供できるかです。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため外出自粛が求められていますが、一方で高齢者が家に閉じこもると、フレイルや認知機能の低下などを招くおそれもあるわけです。そうした中でデジタルツールを取り入れた脳のお元気教室は、感染対策を徹底しながら町民の健康維持、予防意識の向上を図れるという意味で、非常に有意義な活動であるというのが私の認識です。

美郷町はめざす町のあり方に「活気あふれる明るい町」を掲げていますが、"活気"は住民の方々が自ら考え、協力しあい、行動してこそ生まれてくるものです。次年度のお元気教室はこのような考え方に基づき、町のバックアップのもと住民主体の活動として行っていく予定です。

※デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

脳のお元気教室スタッフインタビュー

脳の健康、認知症についてより広い世代に知ってほしい

美郷町 健康福祉課 課長 地域包括支援センター所長

松嶋由香里さん

美郷町 健康福祉課 保健師

氏永加枇さん

美郷町 健康福祉課 保健師

口羽淳子さん

美郷町 健康福祉課 主任主事

生越万里さん

左から松嶋さん、氏永さん、生越さん、口羽さん。

脳のお元気教室実施の経緯

松嶋新型コロナウイルス 感染症が拡大する中で、地域の民生委貝から高齢者が自宅に閉じこもりがちで外出を控えている状況があるとの報告を受けていました。何も手を打たなければ、そうした方々の運動機能や認知機能の低下が進むであろうことは容易に想像できました。そこで、感染防止を徹底しながら脳の健康維持や認知症予防のレクリエーション、啓発を行う場として、脳のお元気教室を始めたのです。

初回と最後に 「のうKNOW」を行う理由

松嶋まず初回の実施についてですが、自身の脳の健康度を知ることが脳や認知症予防への関心を高め、教室に継続参加するモチベーションになると考えました。年度末にもう一度行うのは、初回の結果と比較して、お元気教室が町民の脳の健康維持や向上に役立ったか、町の高齢者施策として適切だったかどうかを評価するためです。

お元気教室参加者のフォローアップは?

松嶋「のうKNOW」でB、C判定だった 方には、タブレットを使い慣れていないということを考慮し、「長時間は続かないですよね」「慣れれば結果は変わると思います」と励ましつつ、教室に継続参加して介護予防に取り組むよう伝えています。「のうKNOW」を完遂できず、言動などにも明らかに間題があると思われるような方に関しては、ご家族にデイサービスの利用をお勧めしたケースもありました。

次年度以降のお元気教室について

松嶋基本的には継続の方向です。今年度は町の事業として行いましたが、次年度は住民サロンなど住民主体活動に取り込み、町が活動費を補助するようなかたちでの実施を想定しています。また、より若い世代にも脳の健康や認知症予防、早期発見の大切さを知ってもらうため、20歳以上を対象とする事業所健診にも働きかけていく方向で調整を進めています。最近は脳の健康維持のためのスマホアプリなども開発されていますが、そうしたツールを活用した健康づくりも進めていきたいと考えています。

脳の健康度チェック実施してみての感想

口羽お元気教室の会場では、マスク着用の上、距離を保ち、スタッフが手指消毒を持ち歩いて繰り返し消毒をしていただくなど、感染対策を徹底しました。感染を危惧して来られない方はおらず、ほとんどの方が継続して参加されています。

お元気教室に比べ年齢層が 若い特定健診でも、「のうKNOW」を完遂できない方がいることに少し驚きました。その点からしても、若いうちから認知症の予防や早期発見の大切さを知っていただくことが重要だと思います。

生越「のうKNOW」をスタートする際は画面上に説明が表示されるのですが、タブレットを使い慣れていないこともあってか、読み飛ばしてしまわれる参加者が目立ちました。その状態で始めて思うようにできず、いら立ちを露わにされる方もいました。戸惑うことなくスムーズに進めていただくためには、口頭でも丁寧に説明する必要があると感じています。

氏永美郷町は高齢化が進んでおり、介護保険申請の原因疾患の第1位は認知症です。認知症への対応は重要課題であり、早期発見してフォローするための体制づくりのほか、若いうちから認知症に関心を持ち、予防につながる行動を日頃から心がけてもらうことが重要です。今後は事業所健診においても「のうKNOW」を実施するなど、壮年期から認知症予防について関心を持ってもらうための啓発活動に力を入れていきたいと思っています。