導入事例旭川赤十字病院 脳ドックのルーチンで脳の健康度チェックを実施
~他の脳ドックとの“違い”を示すアピールポイント~
取材:2023年3月1日 旭川赤十字病院
旭川赤十字病院では2022年10月、脳ドックのルーチンとして脳の健康度チェック「のうKNOW」※を導入しました。脳ドックは、脳に関係する疾患の診断あるいは疾患リスクの早期発見などを目的としますが、受診を通じて早い時期から自分の脳の状態に関心を持ってもらうことも脳ドックの重要な役割です。そうした機能の強化に向け、旭川赤十字病院が「のうKNOW」を選定した理由、運用状況、実施の手応えなどについて、同院の方々へのインタビューを中心に紹介します。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断ではなく、健康意識の向上を目的としています。
旭川赤十字病院の「脳ドック」と「認知症予防健診」
脳ドック
問診・血圧測定・MRI・MRA・脳の健康度チェック(2022年10月より追加)
自覚症状のない人が中心。企業や団体の健康保険組合加入者=働き盛り世代の受診が多い(中面に年齢分布を掲載)。
脳卒中などの病気が気になる人、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満・喫煙などの危険因子を有する人などに受診を勧めている。
認知症予防健診(認知症スクリーニング健診)
MRI・MRA・頸動脈エコー・血圧・脳萎縮評価支援システム・TDAS(もの忘れ相談プログラム)
原則60歳以上が対象であるため高齢者の受診が多い。
脳萎縮評価支援システム、TDASはアルツハイマー病の抽出にスポットを当てている。
検査枠
脳ドックと認知症予防健診を合わせて1日5枠(月~金)。ただし認知症予防健診は1日最大2枠のため、脳ドックは3~5枠で運用している。
脳ドックの流れ
※「のうKNOW」のデータ管理・個人情報の登録について:健診センター独自の個人識別IDを設定しており、管理者画面に入力してデータを管理
先生インタビュー
“検査を受ける”だけでなく“自ら行う”という感覚を持てることが重要です
旭川赤十字病院 副院長 糖尿病・内分泌内科部長
健診センター長 安孫子 亜津子先生
旭川赤十字病院の副院長であり、2022年4月から健診センター長を兼務する安孫子先生に、脳の健康度チェックについて将来的な期待も含めて伺いました。
セルフチェック方式が脳の健康への関心・意識を高める
脳の健康度チェックを脳ドックの実施項目に組み入れた理由をお聞かせください。
「のうKNOW」の導入については2021年の末ごろから前任の副院長を中心に検討が開始され、ちょうどデモ等が始まるタイミングで私も関わらせていただきました。実際に「のうKNOW」によるチェックを見てまず感じたのは、思ったよりも簡便に実施できるということです。これなら受診される方も当院のスタッフもそれほど負担にならないと実感しました。
私が特に重視したのは、受診される方々が結果を自覚しやすいと思われる点です。たとえば脳のMRI検査の場合、受診者の方は画像を示され、医師の説明を受けて初めて結果がわかります。ですからどうしても“検査された”という受け身の印象になりがちです。その点で「のうKNOW」は、自分から何かをやった、“自らチェックした”という感覚が持てる点に大きな意味があると感じています。自らが主体となって取り組むことで脳の働き具合を自覚するといった機会はなかなかないのではないでしょうか。
私は、脳ドックを受診されたみなさんに、早期から脳の健康に関心を持っていただきたいと願っています。そのためには、“自らチェックする”という意識を持つことが非常に重要だと思います。
脳ドックのリピーターを増やすことで運営に資する可能性も
脳ドックの運営面に関して何か導入の決め手となったことはあるでしょうか。
様々な医療機関が脳ドックを実施するなか、「当院では脳の健康度もチェックします」というアプローチは他との“違い”を示す一つのアピールポイントになり得ると判断しました。
また、先ほどお話しした“検査を受けるだけでなく自らチェックした”という印象は強く残ると思いますので、数年後にまた人間ドックの受診を検討したときに、「今回も旭川赤十字病院で受けてみよう」というモチベーションにつながる可能性があります。長期的に安定して脳ドックを運営するうえでも「のうKNOW」を導入するメリットがあるのではないかと考えました。
長期的なデータの集積・分析も見据えてルーチンで実施
脳ドックのルーチンとして脳の健康度チェックを導入したのはなぜでしょうか。
より多くの人に脳の健康への意識を高めてもらいたいということが一つと、あとは「のうKNOW」の実施件数を増やしたいという理由もありました。ルーチンにすることで実施件数がより増加し、長期的にデータが蓄積されていくことで、何か新しいことを見いだすきっかけが得られるかもしれないと期待しています。
日本は高齢化において世界をリードしており、認知症の方もこれだけ増えているなか、脳ドックで新たな知見の獲得にチャレンジしていくことも必要ではないでしょうか。その結果として、脳ドックのステータスがさらに高まるという流れになれば理想的かと思います。
私の専門の糖尿病と認知機能の低下には関係があることが示唆されている1こともあり、個人的に、生活習慣、血管リスクが脳の状態とどのように関連してくるのか非常に興味があります。分析はまだですが、たとえば微小脳梗塞などのMRI所見のある方が必ずしも「のうKNOW」の結果が悪いわけではないと確認しています。
外来のない午後は使われていない診察室で「のうKNOW」を実施。
やはり少し違うものを見ている─「のうKNOW」の結果は脳病変とダイレクトに結びつくものではなく、まさに「その人の脳のそのときの健康状態」を反映しているのであろうということが、現在までの100名強の方々のデータから見えてきているわけです。そのような意味からも、一回のチェックで終わるのではなく、定期的に評価を繰り返し、経時的な変化を見ていくことが重要だと思います。
1,Profenno LA,et al.Biol Psychiatry.2010; 67(6):505-512.
健診センターのスタッフに聞きました
脳の健康度チェックの導入により
変わったこと
変わらなかったこと
(左から)和田 好恵さん、高津 瑞恵さん、大場 将玄さん
結果をもとにどう関わるかが重要という意識が強まりました
旭川赤十字病院 健診センター 看護師長 高津 瑞恵さん
「のうKNOW」の導入直後は、通信トラブルによるエラーが出て私たちが急遽対応することもありましたが、今はエラーもなく日常業務での問題は特に感じていません。ただ運用が落ち着いた一方で、「のうKNOW」の結果を、受診された方々のためにいかに活用するかが大きな課題だと、じわじわと感じるようになっています。結果が出るものに対して、それで終わりではなく、健診センターとして、保健師や看護師としてどう関わっていくことが必要なのかを考えていかなければいけない─ そのような意識が強まりました。
「のうKNOW」のデータを集計することで、何か見えてくるものがあるかもしれないという感触を得ていますし、健診センター長の安孫子先生や健診部長もデータに興味を持ってくださるので、結果を踏まえたフォローのあり方について一緒に考えていきたいと思っています。
導入によって業務量が増えたという感覚はありません
旭川赤十字病院 健診センター 保健師 和田 好恵さん
受診者の方が「のうKNOW」を始める前に私から説明をするのですが、「何のためにチェックするのか」「どういう意味があるのか」を理解していただけるように心がけています。それ以外は、タブレットの画面上でセルフチェックの仕方が説明されますし、簡単な練習もあるので、私たちが何か手を添えなければいけないということは基本的にありません。導入前に健診センターのスタッフが「のうKNOW」を体験する機会を設けていただいたので、受診者の方お一人でもできる、自分たちが常に付きっきりになるわけではないという納得のもとで導入に臨めました。今回の取材にあたり、スタッフの皆にあらためて確認したところ、やはり以前よりも業務量が増えた感覚はないとの話でした。
また、チェックにかかる時間が約15分で、検査の合間の待ち時間中に実施できるため、受診者の方に健診センターにいていただく時間が長くなるわけではないという点も大きなメリットかと思います。
フリーWi-Fiサービスを同時にスタートしました
旭川赤十字病院 事務部 医事課 業務係長 大場 将玄(まさたか)さん
脳の健康度チェックの導入検討時、コスト的にはインターネット環境の整備とタブレットが必要になる程度なので、事務方の間で導入リスクや課題が議論されることは特にありませんでした。導入を機に脳ドックの料金を若干引き上げさせていただきましたが、旭川市内にある他の脳ドックの料金設定との比較において、受診数の減少を心配するほどの変更ではないという判断に至っています。
当院の健診センターは、無線LANによる電波干渉の防止等の観点から、以前は通信環境が十分に整えられていませんでした。そこで病院に対し、「のうKNOW」実施のためのWi-Fi環境の整備を提案したのですが、あわせて健診を受けられる方へのサービスとしてフリーWi-Fiの提供を申し出たところ、良いタイミングということでスムーズに承認を得ることができました。
脳の健康度チェック導入当初は、1台のWi-Fiルーターで「のうKNOW」および健診センター待合室でのフリーWi-Fi提供に対応していました。しかし電波状態が不安定だったため、Wi-Fiルーターを2台に増やし用途別にしたところ通信トラブルは解消しました。