導入事例高知県安芸市 特定健診とセットで「脳の健康度チェック」を実施
~脳の健康への意識向上と行動変容につなげる~
取材:2022年10月25日 安芸市防災センター(消防防災センター)
安芸市では令和3年度より、国保ヘルスアップ事業(特定健診継続受診対策)の一環として脳の健康度チェック事業を実施しています。特定健診の際に希望者に「のうKNOW」※を行うことにより、体の健康に加えて脳の健康についても意識してもらうきっかけとするのが目的です。また、認知症予防に関係する生活習慣の見直しを促す取り組みとしても位置付けています。
令和3年度に続き4年度も事業を継続したところ、より幅広い市民の参加が得られるとともに、2年続けてチェックを受けた人がいました。
「去年のチェックを受けたあとから勉強したいことが見つかった。勉強によって脳の働きが変わり、今年は結果も良くなった気がする」といった声も聞かれており、脳の健康度に対する関心の向上と定着、行動変容につながることが期待されます。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断ではなく、健康意識の向上を目的としています。
事例内容
事業の背景
要介護状態となる原因疾患が認知症である方が増えていること、安芸市では血管性の認知症が増加していること、アルツハイマー型認知症も糖尿病と関係があることがわかってきていることなどから、生活習慣病予防が認知症予防につながることの啓発が重要と考えました。
アルツハイマー病では脳の器質の異変が認知症発症の20年ほど前より始まっているとされるため、若い世代への働きかけが重要と考えました。
対象
特定健診受診者のうち40歳~74歳でチェックを希望する人(令和3年度定員:200人、令和4年度定員:400人、対象者:約4300人)
※対象年齢以外でも希望があれば実施
内容
周知方法
1.
広報誌「あき」にて紹介
2.
健診案内時に紹介(郵送)
3.
健診当日に案内(声かけ)
・
会場入り口で脳の健康度チェックのパンフレットを渡して案内
・
会場内で案内
パンフレットを見ている人、待合のモニタに映しているのうKNOWの実施方法のビデオを視聴している人などに重点的に声かけ
・
保健指導時に案内
チェックの流れ
令和3年度・4年度※ 安芸市「脳の健康度チェック」の結果
※令和4年10月末時点
フォロー体制
脳の健康度チェックを行った人全員を対象に、認知症予防のための講座(からだと脳のコンディショニング講座:年6回・スポーツクラブの講座など)を実施。
広報誌「あき」にて毎月、脳の健康に関する記事を掲載し啓発を推進(令和3年6~12月)。
アルコール多飲・睡眠不足・うつ傾向の人がいたため、生活習慣の見直しと、楽しみや趣味を持つように促した。
特に男性が年齢とともに集中力・記憶力が低下している傾向があるため、男性の居場所づくりが必要であると考え、健康マージャンや、スポーツクラブと協働での講座を検討していった。
効果・反応
講座参加者から、「認知症予防のために生活習慣病予防が重要であるとわかった」という声や「食事や運動に気をつけ始めた」という声が聞かれた。参加者が仲間を誘って講座に参加してくれるようになった。
広報誌「あき」 令和3年7月号
導入自治体様インタビュー
脳の健康度チェックの実施主体である安芸市市民課
地域包括支援センターのみなさんにお話を伺いました。
(左から)門田 将樹さん、渡辺 友香さん、藤田 絵里香さん
特定健診の受診率向上と、脳の健康度チェックの参加者拡大、両方の期待・メリットが合致しました
特定健診とあわせて脳の健康度チェックを実施した主な理由として、特定健診の受診率を高めたい、そのために市民の方々にとって魅力的な機能を付加したいという思いがありました。
一方、脳の健康度チェックは、より多くの方にチェックを気軽に受けていただける場が求められます。その両方の思いが合致したこと、両方のメリットが得られることが、特定健診会場での実施の一つの決め手になりました。令和3年度の安芸市街地(元気館)のチェックでは、男性は60歳を境に年齢が上がるにつれて脳の健康度が低下していました。
しかし令和4年度のその他の地域(市街地外の各公民館)のチェックではそうした傾向はみられませんでした。推測として、市街地は仕事をリタイアされた男性が多く、その他の地域では高齢でも農業に従事されている男性が多いことが影響しているのかもしれません。もしそうであれば、市街地の男性高齢者の状況を踏まえたさらなる対策が必要となってきます。そのような地域ごとの支援策や事業を検討するうえでもチェックを継続する必要性を感じています。
また、個別ケースへの対応に関しては、脳の健康度チェック等の結果を踏まえ、介入が必要と思われる方については認知症初期集中支援チームと連携することを検討しています。
チェックとあわせて生活習慣のアンケートを行うことで結果説明・保健指導の手応えが変わりました
令和3年11月から、脳の健康度チェックにあわせて生活習慣のアンケートをとらせていただいたところ、保健師による結果説明・保健指導の中身がまったく変わりました。その方の生活が見えるなかでの結果説明なので、どこを見直せばよいのか、より具体的にアドバイスできます。
結果がよくない方は「じゃあ、どうすればいい?」と聞いてくださることが多かったのですが、そこでご本人に合わせたお話ができますし、ご本人もアンケートへの回答を通して生活習慣への気づきがあるため、保健指導に対する反応がとてもよくなったように感じます。
1年目のチェック後にやりたいことが見つかり、2年目のチェックに手応えを得た方がいます
令和3年度に続き4年度も脳の健康度チェックを受けていただいた60代女性の方のお話が印象的でした。「去年受けてから勉強したいことが見つかり、それをやり始めたら頭の働きというか回転というか、何か違ってきた気がする。
今回のチェックの結果もちょっとは良くなったと思う」というお話でしたが、ご本人の実感どおり、結果は前年より良好でした。
「去年チェックを受けたから今年はいいだろう」という声もありましたが、「集中力も記憶力もその時々の状況で変わるので、1年経ってどうなっているかチェックしてみる意味は大きいと思いますよ」とご説明させていただいています。
医療機関との連携
令和3年度は、脳の健康度チェックの結果が気になる方について、相談の上、1名のみ本人の了解が得られたので、主治医に報告し情報を共有することができた。チェックを継続することにより、よくない結果が続く場合は本人の認識も変わり、改善に向けた次のステップに進みやすくなるのではないか。
安芸郡医師会・認知症疾患医療センターとは取り組みについて共有はできたと考えている。安芸市内の医療機関の一部の先生方からは「いい取り組みだね」と言われている。
今後は事業の実績を共有し、事業の内容、効果、フォロー体制について協議し、医師会や認知症疾患医療センターとともに取り組みを展開していくことが重要と考えている。
参加者インタビュー
取材前に、防災アプリの説明会など3つの地元の会合に参加してきたという野町さん。
脳の健康度チェックに対しては、関心を持ちつつ重く捉えすぎもせず、自然体で2年続けて参加しています。
脳の健康度は自分で判断するしかないし、
判断できる間は大丈夫ではないでしょうか
野町 眞道さん
脳の健康度チェックを受けてみようと思ったきっかけは?
70歳をこえると、物を取りに行った先で何を取りに来たか忘れたり、人の名前が出てこなかったり、漢字が思い出せなかったり、もの忘れはよくあります。少し気になっていたところに、地域包括支援センターの人から声をかけてもらい、受けてみる気になりました。
チェックを受けることへの躊躇は?
パソコンなどに馴染みがない人は、ひょっとしたら自分の作業能力を問われるとか、自己否定されたような気になることもあるかもしれないですね。ただまあトランプゲームみたいなもんでしょう?
これがもっと複雑なテストで脳年齢が判定されるとなるとやっかいかもしれませんが、YES/NOを押すだけなので苦ではないし、実際の年齢より高く出ても「まあええよ」という思いでいればそんなにショックではないんやないですかね。私は去年、実際より2つ3つ若かったのかな。それはそれでそれなりの安心感にはなります。
去年チェックを受けたことによる変化は?
日常のことがそんなに変わりはしませんが、新聞に載っているクロスワードパズルや穴あき漢字クイズなんかは意識してやるようになりました。自分だけでやるのやなしに、妻に「どっちが頭が若いか(一緒に試そう)」って話を持ちかけたりしています。
2年続けてチェックを受けた理由は?
もの忘れがそんなに進んだとは思っていませんが、携帯電話をどこに置いたか忘れたりするのはしょっちゅうです。「おい、鳴らしてくれえ」と言わんと見つからない(笑)。やっぱりここ1年の間にもの忘れの回数は多くなったでしょうか。一つ歳くって73歳になった、そこで脳年齢をチェックするというのはええ機会とは思います。
「脳の健康」と聞いてイメージすることは?
自分でしか判断ができん。自分で判断がつかなくなった時はもう確実な認知症かもしれんですね。同じことを聞くとか、同じものを何回も買うとかいったことがあれば周りは「あ、おかしい」と思うけど、それを本人がわかっているかどうか。わかっていないともういよいよということなのですかね。そういうことはまだ自分にはないので、今のところはええかなと思っています。
脳の健康度チェックを受けた住民の方々の声
ゲームみたいで楽しかった。毎年受けて、チェックしていきたい!
思ったより結果がよくなかった。自分の状態がわかってよかった
ゲームなどやったことがなかったのに、やってみると意外とおもしろかった
体を動かすことや、仕事やボランティアなど何かやってる人は、脳に刺激が行っているこということですね。何かをやらなくてはいけないね
毎年やってみたら、結果がどうなっているかわかってくるね。来年チェックを受けるのは怖いけど、やってみないといけないね
(2回目の実施を終えて)
去年よりは良くなっており、ほっとした。やる前はどきどきしてどうしようかと思った。受けることをやめようかと思った
(2回目の実施を終えて)
年齢とともに老化は進むから、去年より下がらないようにするには努力がいるね
地域包括支援センターの保健師さんの印象に残ったシーン
公民館で60代、70代の男性が、「脳のチェックしゆうと、やってみんかえ」「脳かえ」「脳はもういかんでえ」「ほいたら、やってみるか」と声をかけ合い、誘い合っていた。
男性の実施数が少ないなか、奥さんにお声がけすると「じゃあ受けてみようか」とご夫婦で参加してくださった。
「のうKNOW」結果レポート(部分,ダミー)
2年続けてチェックを受けた人に関しては、当日に実施を決めた場合でも、データを検索して経年比較ができる結果リポートをその場でプリントアウト。
ご自身に推移を確認してもらっている。